上海在住時、日本円から中国元に交換したいときは、いつもアパートから最も近い、仙霞通りにある中国工商銀行を利用していた。
行くと、銀行の入口の外側にいつも同じ中年の男性が立っていて、私が中国人でないと見るや声をかけてきて、日本円をレートより高く中国元に交換する、と言った。
私は、当初は偽札を掴まされるのではないかと怪しく思って無視していた。
ところが、ある時彼が銀行の中に設置されている椅子に腰かけて休んでいるのを見た。
銀行は彼を取り締まることもなく、黙認している。
であれば、彼の言っていることは本当なのだろうと思い、彼に声をかけ話を聞いてみた。
多少のレート交渉も可能だった。
そして私がオーケーすると、彼は銀行の中に入り窓口で中国元を引き出して私に渡した。
銀行の窓口が顧客に渡す人民元が偽札であるわけがない。
安心して、その後はいつも彼に頼んで交換してもらった。
どうして通常のレートより高く交換できるのか彼に聞いてみると、「日本円を集めているからだ」と言ったが、詳しいことは教えてくれなかった。
彼のような者が入口に立っていた銀行は、他では見たことがなく、中国工商銀行仙霞通り店だけであった。